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スペシャルインタビュー2020 第七回「東京ミッドタウンとデザイン・ラウンジ」

武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ (以下、デザイン・ラウンジ) は、2020年12月に東京ミッドタウン・デザインハブ(以下、デザインハブ)内の拠点を閉室し、その機能を市ヶ谷キャンパスへ移行する。この機に、これまでデザイン・ラウンジにご関係頂いた学内外の方からお話を伺いながら、これまでの研究・活動を振り返り検証を行う、デザイン・ラウンジ オンライン企画「スペシャルインタビュー2020」の第7弾。

 

今回は、東京ミッドタウンマネジメント株式会社(以下、東京ミッドタウンマネジメント)井上ルミ子氏より、「デザインとアートの街」としての東京ミッドタウンの成り立ちや様々な取り組みを伺いながら、人が集まる場所の意味、街が生み出す新しい価値について考える。

 


《東京ミッドタウン 開発時のプロジェクト資料》

 

■デザインとアートの街「東京ミッドタウン」の成り立ち

 

―――井上さんの、東京ミッドタウンマネジメントでの仕事のことを教えて下さい。

 

東京ミッドタウンマネジメントは、三井不動産の子会社で、「東京ミッドタウン」のマネジメントを行っています。イベントやプロモーション、商業施設の販促企画などを行うタウンマネジメント部や、建物の施設管理を中心としたプロパティマネジメント部、総務や人事業務を担う業務部があり、東京ミッドタウンの運営・管理業務全般を行います。私は、タウンマネジメント部に所属していて、デザインとアートのプロモーション担当をしています。

私がこのプロジェクトに関わり始めたのは2004年で、後に東京ミッドタウンとなる敷地が更地だった頃です。はじめは、誘致担当の語学系スタッフとして携わっていました。中でも、街のブランド価値を創出する、「付加価値施設」を誘致する担当で、ミッドタウン・タワーの3階から7階を「付加価値エリア」と位置づけて、街の価値に貢献してくれるような施設にお声がけをしたり、独自のコンテンツを企画しました。また、サントリー美術館や21_21 DESIGN SIGHTなどの文化施設の誘致も担当していました。

 

 

―――東京ミッドタウンは、六本木で2007年3月に開業しましたが、その成り立ちはどういったものだったのでしょうか?

 

2000年、防衛庁本庁が六本木から市ヶ谷(新宿区)へ移転、その後入札を経て、東京ミッドタウンのプロジェクトが始まりました。「都心でこのようなまとまった土地が手に入ることは100年に一度あるかないか」という歴史的な機会で、日本を代表するような街にしなければならない、という気概で進行していきました。東京ミッドタウン開業予定の2007年には国立新美術館もオープン予定でしたし、2003年にはすでに六本木ヒルズが開業していたり、と、この街にどんな新しい価値を付加するか、たくさんの人が関わってプランを練っていきました。

そのときにキーワードとして出たのが、「デザインとアート」でした。1980年代の六本木では、芸能人や文化人がサロンのようなお店に集い、文化的な議論をしていました。また、米軍宿舎もあって海外の方が多くいたことから、国際色が豊かな街でもありました。このような「世界の文化と芸術が行き交う街」という六本木のDNAが少なからず作用して、東京ミッドタウンの街ブランドを形成していきました。

 

 


《東京ミッドタウン 景色》

 

 

■東京ミッドタウンのデザインとアートに関連するプロジェクトについて

 

―――東京ミッドタウンにはデザインとアートに関連する施設が多くありますが、どのように入居が決まっていったのでしょうか。

 

まず、サントリー美術館が赤坂から移転することが決まりました。また、2003年、三宅一生氏が朝日新聞に「造ろう デザインミュージアム」という記事を寄稿され、多くの賛同者が集まり、後の21_21 DESIGN SIGHTとなる場所を探していたチームからお声がけをいただきました。さらに、日本デザイン振興会さんとの出会いをきっかけに、デザインという言葉で人が集まり、様々な人がデザインに触れられる「東京ミッドタウン・デザインハブ」を設立していきます。デザインのプロモーション機関、グラフィックデザイナーの機関と、教育機関を誘致して、外部とそれらの機関が有機的につながっていけるような区画もあるといいよね、ということでインターナショナル・デザイン・リエゾンセンターも併設しました。

デザインハブ構想の前には、アメリカのデザイン機関の授業を受講でき、単位も取得できる場をつくる計画もありましたが、フィジビリティ面で頓挫してしまい、その機能を、大学院レベルのデザインを学ぶことができる場としてリエゾンセンターに引き継ぎました。経営にはデザインやクリエイションの力が有効であるという仮説に基づく、今で言うデザイン思考のようなことを学べる場所が当時から必要とされていたのです。

 


《TOKYO MIDTOWN OPEN THE PARK 2019 アートこいのぼり》(2019年)

 

―――東京ミッドタウン主催のデザインとアートのコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD」は、どのように生まれたのですか?

 

東京ミッドタウンは開業に向けて、パブリックアートの常設や美術館誘致、建物自体デザインにも非常に力をいれることでハードとしてはクリエイティビティの高いものができあがりました。開業にあたって、建物を建てて終わり、ではなく、ソフトアプローチでもデザインとアートの要素をとりいれることで開業前に大切にしていたビジョンを根付かせることができるのではないか、と考え、プラットフォームになるような新しい企画を考え始めました。その一つのアクションが、TOKYO MIDTOWN AWARDです。着想は、館内の装飾の一環となるようなアートを提案するためのコンペ企画でしたが、デザインコンペも同時に実施することになり、日本デザイン振興会さん、日本グラフィックデザイナー協会さんに審査員の人選や事務局のノウハウ提供などご協力を頂きました。

デザイナーやアーティストは、「よいものをつくりたい、世の中をよりよくしたい」という気持ちが根底にあふれている方が多く、その分野での若い才能と出会い、力いっぱい応援して、ゆくゆくはより広いフィールドに羽ばたいていっていただきたい、という想いで取り組んでいるアワードです。今年で13回目を迎えますが、5年、10年と続けることで、やっと認知が少し高まったのではないかと思いますし、「デザインとアート」が東京ミッドタウンの街ブランドの一つの柱として認識されてきたかなと思います。

 

―――一度きりでなく継続することが大切なのですね。
六本木アートナイト(六本木の街を舞台に展開するアートイベント)も長く続いているプロジェクトですが、どうですか?

 

六本木アートナイトは、東京都から六本木エリアにお声がけをいただき、六本木の文化に関わる施設がタッグを組み、東京都も主催になり、東京の文化都市である側面を強化する目的で2008年に始動しました(第1回は2009年に開催)。六本木アート・トライアングル(国立新美術館、森美術館、サントリー美術館。2007年発足)のネットワーク加盟館や、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、六本木商店街振興組合などが参加し、実行員会形式でプロジェクトを進めています。エリアとしては、六本木の夜の街というイメージを払拭したいという考えもありました。

 

———2012年度から計8回、ムサビからも東京ミッドタウン企画として、六本木アートナイトで作品を出展させて頂きました。

 

初年度のムサビ企画「Mr.アートナイトTV」、記憶に強く刻まれています。参加型の作品で、学生さんの柔らかい頭じゃないと出てこない作品だったなと思います。

夏のキッズワークショップなどでも、ご一緒させて頂きました。子どもだけでなくファミリーでも楽しめるような「デザインやアートを普及する」という東京ミッドタウンらしい企画を実施して頂きました。実際にムサビの鷹の台キャンパスへ行って、TOKYO MIDTOWN AWARDやキッズワークショップの出展者向けオリエンテーションを実施したことも、デザイン・ラウンジさんが東京ミッドタウンに入居しているからならではの連携だったのではないでしょうか。

 

―――振り返ると、たくさんの連携活動をさせて頂きました。
以前、ムサビ卒業生のアーティストが出展した際に、「東京ミッドタウンの方は、アーティストと作品のことを最優先に考えてくれていて嬉しかった」と、言っていたことを思い出しました。

 


《Tokyo Midtown Award 2016 授賞式》(2016年)

 

―――井上さんご自身の、デザインやアートの分野との出会いはいつだったのですか?

 

美術の授業は中学校までで、大学では総合政策を学んでいたので、デザインやアートに触れる機会はほとんどありませんでした。ただ、大学卒業後、フランスに留学したのですが、そこでの生活が、私にとってのデザインとアートの入口になっているかもしれません。

フランスでは、街をあげてのアートや文化芸術系のイベントがたくさんあって、例えばパリでは「ニュイ・ブランシュ」という、10月の一週目の土日にオールナイトで美術館が開館して街中にアートが溢れかえる、六本木アートナイトのようなイベントが開催されています。真夜中に美術館に行くことができたり、街全体で取り組んでいる様子がとても新鮮でした。その他にも、「音楽の日」には街中ストリート上にアマチュアの人もプロもごったがえしで、多種多様な人が楽しそうにバンド演奏をしていたり。こういう街をあげてのイベントや企画を、日本でもやりたいなと、漠然と思ったんです。

 


《山田太郎プロジェクト~六本木アートナイトスペシャル~》(2015年)

 

 

■これからの「人が集まる場」について

 

―――新型コロナの影響と、これからの人が集まる場について、どう思われますか?

 

色々なイベントが延期や中止になってしまいましたが、一番大きな影響だと考えているのは、一般の方がデザインとアートに触れる機会が減ってしまったことです。東京ミッドタウンでいえば、たまたま街に訪れた方が、デザインとアートとの接点を持てるところが価値の一つだったので、それに代わる新しい価値をどうつくっていくか、そもそも「場」が提供できる価値って何なんだろうと、まだ答えを探しています。

今後、新型コロナが落ち着いたとしても、大量集客がすぐに復活するかといえばそうでもなさそうで。「実際に来なくても良いけれど、来るとより良いものを体験できる」といった価値を提供する必要があります。たとえば、美術館は予約入場制に変わりましたが、少ない人数で作品を鑑賞できるようになったので、美術鑑賞体験としての価値は上がりました。

また、オンライン開催のセミナーが増えたことで全国各地から参加できるようになったのは、すごく良いことですよね。しかし、オンラインでは「たまたま出会う」ことができないんです。フィルターバブル(個人の嗜好に合った情報だけが選択的に提示される機能)の問題に近いかもしれません。オンラインとリアルの場所の組み合わせのような話はよく出ますが、場所がなければ実験できないことが多くありますし、そういった意味でも「場」そのものはこれからも必要だと思っています。

そして、新型コロナがきっかけで、普段振り返る時間がない人たちの動きが、強制的に止まった時期ができましたね。今の課題を見つめ直すきっかけとして、リアルじゃなければできないことってなんだろう? と、みんなで考える機会になりました。東京ミッドタウンでは、様々なアイデアをどうやって実現していくか。頭の中で考えるだけではなく、「そのアイデアを実現まで持っていけるプロフェッショナル」でいたい、と思っています。

 


《オンライン開催のワークショップ配信風景》(2020年)

 

 

■市ヶ谷へ移行後のデザイン・ラウンジの機能に思うこと

 

―――これまでの社会と美術大学の関係に危機を感じ、ムサビは社会連携活動を積極的に取り組んできましたが、デザイン・ラウンジが六本木で順調に活動できたのは、東京ミッドタウンマネジメントの皆様や、デザインハブ構成機関の皆様のお力添えのおかげです。今後の活動について、一言お願い致します。

 

「たまたま出会い、そこから何かが生まれる」というのが街の特徴であり価値になっていくので、市ヶ谷では「市ヶ谷らしさ」をうまく取り入れられると、その場に集まる価値が生まれると思います。六本木で言えば、美術館がたくさん集まっているので、美術館関係者やアートに関わる人達、その界隈ではないけれど何かコラボレーションをしたいと思っている人がたまたま会って何かが生まれていく、といったことです。

ムサビを軸として集まる人たちが、シナジーを発揮できるような有機的なつながりを持つには、「場所」が必要です。市ヶ谷へ移転することによって変わる部分と、どこであっても変わらないビジョンが両輪で動いていけば、新しい街で出会う人達と、もともとの普遍的な部分に賛同していた人達がミックスされて、新しいコミュニティができていくと思います。少し時間はかかるかもしれませんが、ビジョンを携えて継続することで必ず醸成されていきます。

 

 

―――東京ミッドタウンの先進的な街づくりのお話を伺い、9年間、貴重な環境で活動させて頂いたということを改めて感じました。市ヶ谷へ移転後も、六本木での経験を糧に様々なデザイン活動に取り組みますので、武蔵野美術大学をどうぞよろしくお願い致します。

 

井上さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

 


《東京ミッドタウン 外観》

 

 


井上ルミ子 (いのうえるみこ) 東京ミッドタウンマネジメント株式会社タウンマネジメント部プロモーティンググループシニアマネージャー
中央大学総合政策学部卒業後、フランス エクス=アン=プロヴァンス政治学院(Institut d’Études Politiques Aix-en-Provence)にて学位取得。英・仏の翻訳業務などを経て2004年より東京ミッドタウンプロジェクトに従事。デザイン&アートプロモーション担当として、イベント企画運営、テナント誘致、メディア運営などを手掛ける。TOKYO MIDTOWN AWARD プロジェクトディレクター、ウェブマガジン六本木未来会議編集長など。

 

(文=武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ)

 

 

【スペシャルインタビュー2020】

第一回「デザイン・ラウンジと津村耕佑」
https://d-lounge.jp/2020/07/13998

第二回「デザイン・ラウンジと美術大学の社会連携」
https://d-lounge.jp/2020/07/14085

第三回「デザイン・ラウンジと学生ワークショップ」
https://d-lounge.jp/2020/08/14148

第四回「デザイン・ラウンジの成り立ち」
https://d-lounge.jp/2020/08/14254

第五回「デザイン・ラウンジとこれからの集まる場」
https://d-lounge.jp/2020/09/14424

第六回「東京ミッドタウン・デザインハブとデザイン・ラウンジ」
https://d-lounge.jp/2020/09/14544

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