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【report】PLAY! ×武蔵野美術大学 課外プロジェクト「PLAY! と経済:アート、クリエイティブ、実践」第1回レポート

1.はじめに

突然ですが、はじめまして。ライターのヤマグチナナコと申します。
武蔵野美術大学の芸術文化学科を卒業後、紆余曲折ありつつ、いまはフリーのライターとして活動しています。

「いいなあ。」
この企画について説明を受けたとき、口から思わず出たのはちょっとした嫉妬でした。
2020年6月に立川に新設された複合文化施設「PLAY!」(以下「PLAY!」)と武蔵野美術大学(以下、ムサビ)の共同課外プロジェクト。2021年1月から3月にかけて全10回の活動が行われ、そのなかで学科を横断した学生各自のスキルを活かし、「PLAY!」 に関連するイベント企画や広報ツール、コンテンツ制作などの幅広い活動を行うという内容です。

コロナ禍で課外活動や、こういった共同プロジェクトが例年よりも少なくなっているなか、このプロジェクトは学生にとっても、また施設にとっても貴重な機会。この取り組みを通して、学生はそれぞれのクリエイティブを活かし社会とどのように関わるかを実践的に学び、「PLAY!」では経済を活性化させ、持続可能な場所として定着させていくことを目指します。この二点を念頭におきつつ、もし自分だったらどんなことをするかな、どんなことを提案しようかな、とまだ大学にいるかのような妄想をしつつ、今回はライターとしてプロジェクトのレポートを更新していきます。

 


《PLAY! MUSEUMの様子》

 

2.緊急事態宣言下のプロジェクト初回

さて、初回のミーティングが行われたのは2021年1月18日。緊急事態宣言の発令により、本来は「PLAY!」の施設内で行われるはずだったものが、オンラインでの開催となりました。今回はプロジェクトに応募した学生の中から、5人の学部生・院生を選出。それぞれ学科が異なり、取り組む制作や課題がバラバラなメンバーが揃いました。

まずはじめに、プロジェクトの講師である「PLAY!」プロデューサーの草刈大介さんからご自身の紹介と、代表をされている株式会社ブルーシープについての説明。また、同じくブルーシープの所属で、「PLAY!」では広報を担当されている森田藍子さん、「PLAY!PARK」を担当されているエイアンドビーホールディングス株式会社の小栗里奈さんも出席されていました。

この場所でお聞きした内容を書ききることはなかなか難しいので、草刈さんのこれまでのことと、「PLAY!」ができるまでのことは、こちらのnoteから。草刈さんの素敵なテキストで、読みやすくまとめられています。

そのあとは学生たちの自己紹介。それぞれ、この日のために自己紹介用のポートフォリオを作成してきていました。各自の話ぶりはもちろんですが、ポートフォリオの作品や活動、それについて説明する言葉選びに各学生の個性が見えたような気がします。

5人の学生たちの所属学科はそれぞれ、日本画学科、工芸工業デザイン学科 インテリア専攻、空間演出デザイン学科、デザイン情報学科(2名)。
この並びからもわかるかもしれませんが、それぞれが制作する作品や取り組んできたプロジェクトは実にバラバラ。追って各学生の自己紹介についても触れますが、これだけ専門性が分かれた学生が集められているのも、このプロジェクトの特徴なようです。
というのも、このプロジェクト、「PLAY!」が現在抱える問題をシェアしながら、学生が課題の発見や解決方法を提案し、話し合っていくというプロセスのみが決まっており、現段階では最終的になにをするのか、全く決まっていません。
これまでの多くの産学プロジェクトは、学生に取り組んでもらいたいことや方向性、あるいは制作するものがすでに決定しているのが一般的。大学としても「話し合いながら課題をみつけ、アウトプットを考える」という終着点の見えない、流動的な取り組みというのは珍しいとのこと。つまり何をするのかわからないからこそ、様々な視点と、得意分野を持った学生や院生が集めれています。

 


《オンラインでの活動の様子》

 

3.学生たちの自己紹介

異なるのは学科や取り組んでいることだけでなく、参加理由も同様にバラバラでした。ここから先は、各学生の作品や、コメントを紹介していきます。まず最初は、下記の作品を制作した日本画学科(以下、日本画)の学生。
得意なことは「思い通りの色をつくり、塗ること」。現在の状況下で、子どもはもちろん、親も楽しめるようなワークショップや企画ができたらいいと話していました。また、このプロジェクトで積極性を身に付けたい、とも。

似た理由を話していたのは、工芸工業デザイン学科(以下、工デ)の学生。この二人のように、個人での制作が多くなる学生は、「チームで話し合いながら、制作をしていく」という機会をこういった産学プロジェクトや、課外活動に求めているのかもしれません。日頃から展示をみるとき「自分だったらどうつくるだろう、という視点でみることが多い」というエピソードは、工デの学生ならでは。

 


《日本画学科学生の自己紹介》

 

一方で、グループワークに慣れている印象を受けた学生も。空間演出デザイン学科(以下、空デ)から参加する大学院生は、学生時代につくったさまざまなグループワークを記録映像を混じえて自己紹介してくれました。その多くが大掛かりなインスタレーションで、空間と人を巻き込む性質があるのが興味深かったです。
最後に紹介するデザイン情報学科(以下、デ情)の二人は、奇しくも同じゼミ。とはいえ、一人はブランディングをグラフィックデザインやウェブデザインでアウトプットする学生と、もう一人は今回のリーダーを務めることになった学生で、普段はSNS運用やマネージメント、ディレクターの立場でプロジェクトやサークル活動に参加しているとのことで、それぞれのスタンスの多様さはデ情ならではな気がします。

以上の5名が、今回のプロジェクトに関わる学生たち。ここで思い出しておきたいのが、冒頭で挙げた「学生はそれぞれのクリエイティブを活かし、社会とどのように関わるかを実践的に学べるのか。」という点。私は、その最初の関門がグループ内での相互理解、連携な気もしています。自分自身の経験として、学生時代はそれがうまくいく場合もあれば、議論で生じる衝突を避けるがあまり折衷案になってしまい、アイデアがおもしろくなくなったり、制作までの体力が続かなくなってしまうこともありました。同じ轍を踏むとは考えていませんが、これだけさまざまな背景やアプローチをもった学生たちが、どうやってお互いに歩み寄っていくのか。学科や個人同士の違いを認識し、チームを形成していくのか。自身の反省を久しぶりに振り返りつつ、その過程にも注目していきたいです。

 


《デザイン情報学科学生の自己紹介》

 

4.「プロデューサー」という仕事

少しだけ話は戻りますが、「PLAY!」の草刈さんと森田さんが話していた「プロデューサー」という仕事について、最後に触れたいと思います。普段、さまざまな書籍や展覧会にプロデューサーという役割で携わっているお二人曰く「物事をより良くすることが、プロデューサーの仕事」とのこと。また、何かを作りたいと思っている人と、それが必要な人を繋げて、橋渡しをしながらものをつくっていくような仕事であるとも話されていました。

つまり「リサーチをして今の社会に必要なもの、あったらいいなと思うものを考え、スタッフを集め、物事を形にしていく」ということ。ここで私は、ムサビの学生はこの一連の流れを一人で、あるいは数名で行っていることに気付きました。制作や課題の中で、自分を掘り下げたり、リサーチをしていくこと。それを自分たちの手でアウトプットしていくこと。

草刈さんたちの話を聴いて、学生たちが「プロデューサー」という仕事についてどう咀嚼していたかは知る由もありませんが、自分が学生のときは、社会に出ると「プロデューサー」や「デザイナー」、「メーカー」や「消費者」として立場や業種、専門で縦割りで分かれていくことを、良くも悪くも混同していて「それって自分たちの中でできるし、分ける必要ないかもな」と考えていたような。

だからこのプロジェクトがどうなるか、なんて予想は恐れ多くてできません。ですが「プロデューサー」として「PLAY!」をはじめ多くの施設や展覧会を動かしている草刈さんたちと、まだ何者でもなく、制作や課題に取り組む中で問題を見つけたり、自分を掘り下げることで、物事を形にしていっている学生たち。この近しいのか遠いのか分からない双方が、どう関わり合いながら課題をみつけ、アウトプットに導いていくのか。もしかしたら、学生の中でプロデューサーやクリエイターといった住み分けが生まれていくかもしれないし、はたまた全員が考え、全員で手を動かすような体制になるかもしれません。もしかしたら、最終的に学生全員がプロデューサーとして「PLAY!」へ働きかけることも、あるかもしれません。

こうしてみると、なにを制作することになるのか(そもそも制作をするのか)ももちろん気になるのですが、それ以上にアウトプットまでのプロセスや、そのプロセスの中での学生同士の関わり合いがとても気になるプロジェクトだなあと、初回の活動を振り返って改めて考えています。

 


《PLAY! PARKの様子》

 

次回またレポートを更新するのは、第4回目となります。今のところ、2回目の活動ではPLAY! 開館の経緯や方針などの概要、3回目で施設の現状と課題を「PLAY!」の皆さんから伺い、4回目に課題を受けて各学生から提案を行う予定です。学生たちがどんな提案を行い、それがどう「PLAY!」側に届くのか。そのタイミングでまた大きくプロジェクトが動き出すんだろうなと想像しながら、今回の記事はここまでとさせていただきます。それではまた次回。

(文=ヤマグチナナコ)

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