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【magazine】西武バス×武蔵野美術大学 産学共同プロジェクトインタビュー

西武バス株式会社と武蔵野美術大学が2019年から約1年かけて実施した産学共同プロジェクト「利用者の快適性向上を目的としたバスサービスのデザイン」。西武バスの若手社員で構成される会社横断的なプロモーションチームと、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科の有志の学生が共同で、利用者の快適性向上のためにバスサービスの在り方を検討しました。
今回は西武バス株式会社(以下、西武バス)の加藤和行さん、吉田優子さん、武蔵野美術大学(以下、ムサビ)学生の上田さつきさん、立谷央麗さん、河畑花恋さんとプロジェクトを振り返ります。

 
 

プロジェクトのキックオフ

 

―今回のプロジェクトは、バス事業が抱える課題を解決し、利用者の快適性を向上させることを目的として、バスサービスの在り方をデザインの観点から検討するものでした。どのようなきっかけでプロジェクトが始まったのか教えてください。

吉田: 初めは西武バスのイメージを明るくしたいという考えでラッピングバスのデザインを大学に依頼しました。しかしそれはデザイン会社などに依頼しても実現することなので、学生も交えた、大学との連携ならではの取り組みをしませんかということで、大学側からご提案いただいたのがこの産学共同プロジェクトです。

―当初は全く別のご依頼だったのですね。今回の取り組みは大学の授業外で実施する課外プロジェクトとして行われたものですが、学生の皆さんはどのようなきっかけで参加しましたか?

上田:企業との取り組みはめったにない機会ですし、西武バスは大学に通うときに毎日利用しているので思い入れがあり、関わってみたいと思い参加しました。

立谷: 授業以外でデザインに関わる活動をしたことがあまりなかったので、なかなかないチャンスだと思い参加しました。西武バスは目にする機会が多くあり身近な存在で気になったというのも参加したきっかけです。

河畑:私は齋藤先生*から直接話を聞いて面白そうだなと思って参加しました。
*齋藤啓子(視覚伝達デザイン学科教授)。プロジェクトの担当教員

 


《武蔵野美術大学 上田さん》

 

―西武バスがもともと身近にあったのですね。プロジェクトはどのように進んでいきましたか?

上田:まずは課題を自分のことに置き換えるため、西武バスの社員さんにも活動に参加してもらいながら、バスの思い出などを話し合いました。

立谷:営業所の見学や関係者へのヒアリングも行いつつ、みんなで意見を出し合う期間が続きましたね。視覚伝達デザイン学科ではよくグループディスカッションをするのですが、今回はこの部分を特に時間をかけて行いました。

加藤:事前にプロジェクトの進め方は聞いていたものの、初めの1〜2ヶ月はずっと意見出しをしていたので、これで間に合うのかな?という感じが正直ありました。先々でスケジュールがタイトになっていくのではと考えてしまって…最初のうちは不安がないわけではなかったですね。

河畑:北崎先生* からは、企画を立てる前に、だれのために、なんのために、といった5W1Hを定めるのが一番大事だというお話があったので、まずはそこをしっかり考えました。
*北崎允子(視覚伝達デザイン学科准教授)。プロジェクトの担当教員

上田:その後、みんなの意見をまとめて、この課題を考えたいとか、こういう思い入れがあるからこの課題に取り組みたいということをそれぞれが決めた結果、グループや一人で企画を進めることになりました。

 


《武蔵野美術大学 立谷さん》

 
 

ピクトグラムについて

 

―プロジェクトから生まれたいくつかの企画のなかから、本日は「乗り方・支払い方法を表現したピクトグラム」、「乗務員のイメージビデオ」を企画した学生さんにお話をうかがいます。この二つの企画は2021年3月に実装・公開される予定です。
「ピクトグラム」は、地域や路線によって乗り方や運賃の支払い方法が異なるバス路線に対して、「学生の利用者」としての目線を踏まえたうえで、美大生ならではの洗練されたデザイン性を活かし作成されました。お子さんからご年配の方、訪日外国人の方に向けて乗り方や運賃の支払い方法を絵や図で示しています。こちらを制作した上田さん、立谷さん、どのような課題に着目して企画を考えたのか教えてください。

上田:プロジェクトの参加メンバーに韓国出身の留学生がいて、バスの乗り方が分からないという意見がありました。バス会社によって入口や出口、支払い方が違って、外国人の方や初めてバスに乗る方はルールが分からないようで、そのような問題が見過ごされていると感じました。

立谷:私自身もバスを利用する頻度が少ないためビギナー向けにバスの乗り方・支払い方を伝えるデザインをつくりたいと思いました。

加藤:自分たちは利用者目線で考えていたつもりだったことが、利用者目線になっていなかったという意見を聞いて、発見も多かったですね。話を聞いて初めて不親切だと気づかされました。

 


《西武バス株式会社 加藤さん》

 

―今回はピクトグラムを使った看板と車内ステッカーを制作されたということで、プロトタイプができてから調査を行なったそうですね。

上田:はい、看板は加藤さんがバス停で持ってお客さんに説明してくださいました。冬の雨の日にバス停に立ったのは寒くて辛かったですね…車内ステッカーは降車後のお客さんにアンケートをとって調査をしたのですが、バスの利用者に突撃インタビューをしたこともあって、コミュニケーションをとるのが大変でした。
最初は車内ステッカーを青色で作成していたのですが、座席と同じ色だったため目立たず誰も見ていない様子でした。そこで、注意をするべき手すりの色と同じ色を採用したところ少し見る人が増えました。

立谷:ピクトグラムは仕上げる直前まで実験や調査を繰り返していたので、普段の授業と並行して進めるのは難しかったです。

吉田:学生さんたちは簡単にデザインができてしまうイメージを持っていたのですが、今回の調査のように下積みと地道な努力をしているのだということが分かりました。白鳥が水面下で足をバタバタ動かしているような、学生さんの勤勉さがかなり刺激になりましたね。

 



《実装されるピクトグラム》

 
 

乗務員のイメージビデオについて

 

―「乗務員のイメージビデオ」は、バス乗務員に対してより親近感を持たせることを目的として、バスを利用するだけでは見ることのできない乗務員の様子をスタイリッシュな音楽に乗せて表現しています。企画した河畑さん、どういった部分に着目して今回の企画を考えたのか教えてください。

河畑:プロジェクトの最初に意見出しをするなかで、運転手さんに関して良い意見が多いことが印象的でした。営業所の方からもお話を伺い、運転手さんたちは利用者のことを一生懸命考えてくれているけど、私はその大変さに気づいていなかったということを感じました。そこで、運転手さんへの感謝の気持ちやかっこいいイメージを伝えられるものをつくりたいと思い、今回のイメージビデオを制作することにしました。
実制作では、吉田さんにたくさん協力をしていただきました。撮影は快晴の日を狙おうとか、時間帯や運転手さんのキャスティングをどうするかなど、相談しながら行いました。

 


《武蔵野美術大学 河畑さん》

 

―出演を依頼した乗務員さんからの反応はいかがでしたか?

河畑: 皆さんノリノリで、楽しく撮影に参加してくださったのではないかと思います。

吉田:乗務員さんは思ったよりも積極的でした。自分がモデルに使われて活躍の場が広がるということもありますし、西武バスをもっと柔らかいイメージにしたいというモチベーションをそれぞれがうちに秘めているという、新たな一面を知ることができました。
イメージビデオはYouTubeの西武バス公式チャンネルで配信する予定で、ほかにも採用の説明会などで利用していきたいと思います。今までの資料とは全く違うクールな印象の映像なので活躍の場がたくさんありそうです。

 


《イメージビデオ(Youtube)》

 

プロジェクトを終えて

 

―最後に今回のプロジェクトを通して良かったことや学んだこと、印象的だったことを教えてください。

加藤:日々の業務はルーティーンワークで、それをいかに早く終わらせるかということに追われているところがありますが、今回の活動を通して考えを出し合うことや一度立ち止まって考えることを意識するようになったと思います。

吉田:一般的に美大生というとひたすら絵を描いたり物をつくったりしているイメージがありますが、いろいろな学科があって、デザインといっても多種多様なジャンルがあると分かりました。学生さんたちは日々忙しそうで勤勉でないとつとまらないと感じました。私はもともと美大に興味があって学生の皆さんにも初めから尊敬の念を持っていたのですが、今回の活動では学生さんたちの勤勉さがとにかく印象に残っています。
また、普段の業務でお客様の視点が分からなくなってしまうことがあるのですが、学生さんたちの着眼点から改めてお客様の視点を学ばせていただきました。活動は本当に楽しかったです。

 


《西武バス株式会社 吉田さん》

 

河畑:デザインする上でのプロセスを学外の方に理解してもらえたのは嬉しかったです。それから、私たち学生のあるべき姿はデザインを使って社会と関わることだと思うのですが、まさにそのような活動ができてとてもためになりました。

立谷:自分の意見と他の学生の意見を比較できたこと、学外の方の意見が聞けたことが勉強になりました。制作したピクトグラムが実装されて人の役に立つこともとても嬉しく思います。

上田:西武バスの皆さんが楽しく活動されていたのが印象的でした。皆さん本当に「楽しいです!」と言ってくださるんですよね。それから学生が制作したものを実装できるということでやりたいことを実現できる柔軟な企業なのだと感じました。バス会社なら西武バスさんに就職したいです!
また、私はプロジェクトに参加した当時はサービスデザインにはあまり興味がありませんでした。でも、西武バスの方と意見を交換したり、利用する方の意見を聞いたりすることがとても楽しくて。今ちょうど就活の時期なのですが、サービスデザインの分野にも興味が湧いていて、それはこの活動がきっかけだったと思っています。

―相互に刺激や学びがあったのですね。ピクトグラム、イメージビデオともにこれから実装、公開されるということでとても楽しみです。皆さん本日はありがとうございました。

 


《インタビュー後の様子》

 
 

参加者:
西武バス株式会社
加藤和行(運輸部管理課)
吉田優子(経理部経理担当)

武蔵野美術大学
上田さつき(視覚伝達デザイン学科3年生)
立谷央麗(視覚伝達デザイン学科3年生)
河畑花恋(視覚伝達デザイン学科4年生)
2021年3月末時点

「ピクトグラム」「乗務員のイメージビデオ」展開についてはこちら
https://www.musabi.ac.jp/news/20210309_03_02/

(写真=いしかわみちこ)
(文=武蔵野美術大学社会連携チーム)

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