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【report】PLAY! ×武蔵野美術大学 課外プロジェクト「PLAY! と経済:アート、クリエイティブ、実践」第2回レポート

 2020年6月に立川に新設された複合文化施設「PLAY!」(以下「PLAY!」)と武蔵野美術大学(以下、ムサビ)の共同課外プロジェクト。今回の記事では第三回の活動を振り返りつつ、第四回の活動で学生たちが提案した内容についてレポートします。

第1回のレポートはこちら

 

1.プロモーションとコンテンツ

 第三回では、「PLAY!」の草刈さんたちから展覧会と経済という側面や、施設が抱える課題について伺いました。新型コロナウイルスの影響で、今までのように外出ができなくなってしまったこの一年。今後「PLAY!」はどうやって来館者数を伸ばしていけばいいのか。そのために、どうやって人を呼び込むのか。この二点の課題が、プロジェクトでの目標となりました。

 それを考えるためのポイントとして挙がったのが、プロモーションとコンテンツ。このバランスについて、「PLAY! MUSEUM」(以下MUSEUM)が2020年からこれまでに行った展示と広報、それに付随したグッズ、カフェの重要性に触れたお話を伺いました。また、MUSEUM部分とはまた違ったポテンシャルを持つ「PLAY! PARK」(以下PARK)についても、これまでの試みを振り返りながら、常に変化する様子を伺いました。
 どんなにいい展示や施設であっても、知ってもらえなければ来てもらえない。逆に、どんなに広まっても、展示内容が本物でなければ、拡散はしていきません。当たり前のようですが、民間の美術館がどうやって展示を企画し、運営を続けていくための利益を上げ、持続しているのかが知れたとても貴重なお話でした。

 


《PLAY! MUSEUMの様子》

 

2.「参加できる」

 第四回の活動では、第三回のレクチャーを踏まえ、学生たちが各自考えてきた企画を発表し、それを受けた「PLAY!」側からフィードバックをもらう回となりました。

 その中でも多かったのが「制作した作品/参加した作品が施設に飾られる」というプラン。もちろんそれぞれの学生が考えてきたのは全く違う内容でしたが、動機付けとして「自分の作品/関わったものが美術館にある→参加したくなる、また作りたくなる、見に行きたくなる」という考えがベースにあり、前提になっているように感じました。

 最初にプレゼンをしてくれたデザイン情報学科(以下デ情)の学生の企画内容は、「PLAY!」の2階と3階のPARKを接続する階段を来場者が制作した作品で装飾するというもの。この階段部分、現在は特に装飾もなく、MUSEUMやPARKと比較するとガランとした雰囲気です。そこを来場した子どもたちの作品で装飾することで、施設全体の連続性を演出したいと提案していました。また、その作品を定期的に入れ替えることで「また作りに行きたい」「飾ってあるところを見たい」というきっかけを作れば、再来場の動機が作れるのではないか、という発想です。この階段は「PLAY!」ではなく「PLAY!」のテナント元である「GREEN SPRINGS」が管理する場所。そのため、現状は「PLAY!」の空間づくりとは切り離されていましたが、今後は使用できる可能性もあるそうです。

 


《活動の様子》

 

 同様に、階段部分を展示に活用するプランを考えた工芸工業デザイン学科(以下工デ)の学生は、東京都美術館で2018年の夏に行われていた『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』を例に挙げていました。この展示は参加体験型の作品が多く、来場者が個々に制作したものが一つにまとめられ、それを見ることができたのだとか。実際に訪れた際に「バラバラで作られたものが一つにまとまっていることに面白さを感じた」と語っていました。

 SNSで著名人を使ったPRや宣伝を提案するのではなく、来場者が能動的に手を動かしたり、アクションしたりすることを動機付けに用いるのは、ものづくりをしている美大生らしい発想だと思います。「つくることが楽しい」「つくるものを見てもらいたい」「美術館に展示されることはすごい」という原体験や気持ちがそもそもないと、思いつきません。また、子どもを巻き込むプロジェクトには、保護者の参加も必須。「子どもに作品制作の体験をさせたい」「作品が飾られたら子どもが嬉しいかも」という親の気持ちを結びつけることで、まずは保護者をこの動機付けに乗せ、「二回目以降も参加したい」「楽しんでいたからまた参加しよう」という連鎖が生まれるのを想像しながら企画が考えられていました。

 


《PLAY! PARKの様子》

 

 もう一人のデ情の学生が提案していたのは、展示室内に複数のシールで覆われた作品を設置し、来場者がそれを剥がして持って帰っていくことで、作品が期間中に変化していくという案。「PLAY!」がその名前ゆえに、インターネット上で検索しにくいことも挙げ、その作品が変化する様子がSNSで共有されていくことで「こんなことやってるんだ」と周知するという仕掛けを話していました。先ほどの二人とは違い、一から来場者が制作するものではないですが、参加型展示として作品制作のメンバーとなり、それを共有するという点では狙いが少し似ています。
 
 フィードバックとして主に挙がったのは、展示の内容やデザイン面の具体性について。どうやったら「PLAY!」が持つ空間の雰囲気を損なわずに、作品を展示できるかも課題となりました。また、階段への展示の場合は、来場者を増やすという課題について、効果が分かりにくいという点も挙げられました。 

 

3.「大人も楽しむ」

 
 子ども連れだけでなく、大人に場所を開放し、楽しんでもらうアイデアも出ていました。空間演出デザイン学科(以下空デ)の学生が提案していたのは、普段は昼に開放している PARKを夜も開放し、大人にも楽しんでもらうという企画。7つのエリアに分けられ、大型遊具や工作ができる作業場所など、子どもたちのためのたくさんの体験と遊びが詰まった空間を、夜間に大人の場所として開放し、宿泊イベントをするなどのんびりできる時間を体験してもらうという内容でした。大人(というか学生自身)も、あの不思議な空間で時間を忘れて遊んでみたい、と思ったのがきっかけだそうです。

 ほかにもPARKについて企画を提案していたのは、日本画学科の学生。自粛期間の長期化で体が鈍っている中で、体を動かせるようなイベントができないだろうか、というもの。この学生は、初回の活動から「子どもも大人も自粛期間が長引きなかなか遊べていないので、そういう親子を対象にした企画を考えたい」と話していました。このプロジェクトでやりたいことと、施設の特性がうまく結びついたようです。

 


《活動の様子》

 

 どちらもPARKが持つ身体性と、自由な開放感に着目しており、まず「『PLAY!』という場所性を拡張し、おもしろそうだなと感じさせる」ことをきっかけに、関心を集めるための企画に感じました。また、「リアルなイベントとして体験する」という企画を考えついたのは、何より本人たちがそういった対面するような機会や体験が少ない一年を過ごしたからなのでしょうか。フィードバックでは、具体的な内容や動員数の概算、どのようなイベントとして実施するか、といった課題が出されていました。感染予防対策などさまざまなハードルはあるものの、これらが具体的になっていくことで、内容もまた変化していくだろうと思います。

 

4.自分のアイデアを、他人の立場で考える

 第三回の活動で、草刈さんたちから提案された企画を考える上でのアドバイス。それは、「自分の中から出てくるアイデアを、他人の立場になって検証する」ということ。自分のアイデアを疑え…というわけではなく、自分の経験や興味から生まれたアイデアを、他人がどう受け取るか想像するという意味です。第四回で挙がっていた学生たちの提案は、まさに各自の興味や経験を引き出しに生まれていたように感じます。そこからどうやって「他の人にとっても興味のあることなのか」「他の人にとっても可能なことなのか」を想像し、企画を磨いていくのかが今後楽しみです。

 また、全体を通して、制作費や予算についてもフィードバックが出されていました。大学で行う制作やプロジェクトは、自分のお財布や大学から予算が出るものが多く、成果物のクオリティを担保することは普段から意識しているものの、収支や回収率について考えることはなかなかありません。しかし、今回のプロジェクトは「PLAY!」の経済を回すことが、大きな目標。「やりたい」と思う企画を、どうやって「やろう」と踏み切るレベルまで落とし込んでいくかという課題は、避けて通れません。

 工数や材料費、実施方法を練ることで、実施へのハードルを下げるのか。それとも、効果を得るための仕組みを作り込み、効果を確実なものにしていくことを選ぶのか。学生たちが考えたそれぞれの企画は、大きな動員につながる仕掛けもあれば、実際の動員数は少なくても、施設のポテンシャルを周知するきっかけになるものもあります。各企画に果たしてどんな狙いがあるのか考え、それを行うことで望める効果を予想し、内容を絞っていくことも今後とても大事になっていくことでしょう。

 


《活動の様子》

 

 第五回以降は、ブラッシュアップした企画をもう一度持ち寄り、ふたたび提案を行っていく予定です。プロジェクトが始動した当初は、それぞれの提案の中から実施する企画を絞る予定でしたが、現状は、各自がそれぞれの企画をもう少し練ることになりそう。つまり、今のところは各自が「プロデューサー」的な立場にあるということ。それぞれの学生がプロデューサーとして企画を管理し、磨いていく過程に注視しつつ、次回もレポートを続けていきます。

 

(文=ヤマグチナナコ)

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