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新しい時代の

デザイン・デザイン教育を

考える場へ

武蔵野美術大学デザイン・ラウンジは、領域・概念が拡大し続ける「デザイン」を捉え、
新たな時代のデザイン教育を創出する「場」を目指しています。

【magazine】スペシャルインタビュー2020 第9回「大学から社会への繋がりとデザイン・ラウンジ」

武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ (以下、デザイン・ラウンジ) は、2020年12月に東京ミッドタウン・デザインハブ(以下、デザインハブ)内の拠点を閉室し、その機能を市ヶ谷キャンパスへ移行する。この機に、これまでデザイン・ラウンジにご関係頂いた学内外の方からお話を伺いながら、これまでの研究・活動を振り返り検証を行う、デザイン・ラウンジ オンライン企画「スペシャルインタビュー2020」の第9弾。

人が集まる意味が変わる今、これからの働く場、教育の場はどうなっていくべきなのか。新しい場作り、新しいクリエイティブに挑戦し続けるクリエイティブアソシエーションC E K A I(以下、CEKAI)の加藤晃央氏(共同代表)、井口皓太氏(共同代表/映像デザイナー/クリエイティブディレクター)、小松健太郎氏(プロデューサー)より、お話を伺う。

 

 

■「CEKAI」の成り立ちについて

 

———「CEKAI」の成り立ちについて、教えてください。

 

加藤:2006年、僕が学生の頃に「モーフィング」という会社を作りました。フリーペーパー制作や展覧会の開催など、当時からムサビだけにこだわらず多様な美術大学の学生たちが学外で集まる場を作ろうと始めました。井口が作ったのは、当時、個で目立っていた人たちが集合独立してものづくりをしていく「TYMOTE(ティモテ)」という会社です。
TYMOTEは、モーフィングが運営した展覧会「THE SIX」が一つのきっかけで結成されていて、クリエイティブディレクションをやってくれた繋がりもありました。そこから二つの会社が有機的に絡み合い、並行して走っていました。
それから、2013年に二人でこれまでそれぞれがやってきたことを融合・拡張させた「CEKAI」という新しいチームを京都に作りました。そこでは、クリエイティブの鋭利に切り開く力と、マネジメントの広く包む力を合流させ、新しいクリエイティブの環境自体を設計しようと考えました。
CEKAIには、クリエイションに直接関わる人と、サポートしたり円滑にプロデュースしたり、クリエイターのマネジメントをする人など、色々な人がいます。一つの組織や場所に100%コミットするというより、それぞれが多拠点、多事業、多所属をしながらフレキシブルに集まる場として始めました。

 

 

《CEKAI オフィス1F》

 

———デザイン制作だけではなく、クリエイティブの活動支援や社会連携的なプロジェクトにも多く取り組まれているのですね。受け入れる仕事の領域には、基準のようなものがあるのでしょうか?

 

加藤:いわゆるデザイン制作を行うものから、サービスデザインやコミュニティデザインなどコンセプトや仕組みなどのデザインを行うものまであります。「熱量、使命感を持ってやりたい人がいるかどうか」を重要視しています。誰もやりたい人がいないのに売り上げや関係性のためにやる、ということはほぼ無いです。その選択は経営的には苦しいですが、しっかり全員の意思が正しい基準で動いている証拠だと思っています。

 

井口:「いいものを作る」が僕らのコンセプトです。学生の頃からここまでやってきて、それしか真実は無いぐらいに思っています。作る側は、いいものを作るなんて当たり前だと思うじゃないですか。しかし、どこかで言い訳するんです。「お金がなかった」「時間がなかった」とか「クライアントが分かってない」とか、たしかに良いものを作れない理由も世の中にはあるので。そんな中でも、良いものを作る一番の条件はエネルギーが満ちていることです。1人がとにかくこれを作りたい、みたいな思いがあればエネルギーはたまるので、条件が満ちていなくても良いものを作ることができます。

ただ、その属人的なエネルギーだけに頼らずに、スケジュールや座組を整理したり、ちゃんと環境を整えようと作ったのが、CEKAIという組織です。そのため、クリエイティブへのリスペクトがなかったり、誰が作っても良いんじゃないかとか、エネルギーがたまっていかなそうな案件は直感的に断っているかもしれません。

 

CEKAI REEL 2019-2020 from CEKAI on Vimeo.


《CEKAI WEB WORKS紹介より引用》

 

■CEKAIのオフィスについて。集まることの意味とは。

 

———CEKAIのオフィスについてお伺いします。
働き方や制作場所に合わせて自由にカスタマイズできる「村世界」と呼ばれる革新的なオフィスですが、着想のようなものはあったのでしょうか?

 

井口:あまり良い印象にならないかもしれませんが、「ドッグヴィル」という映画が着想にあります。ラース・フォン・トリアーという暗い雰囲気の映画を作る監督の作品です。一つの小さな村に見立てた倉庫にグリッドが引いてあって、劇のように物語が進んでいくんです。建物や壁がなく、仕切りのない場所でみんなが演技するので、今ここで起きていることが、向こう側からは全然違うストーリーで見えて展開します。

僕らの業界も、お金の話と制作する側の話が、違う場所で起こることが多くあります。また、加藤と一緒にクリエイターが集まる場所を作って提供していたんですが、「どこかから場所を借りている」程度で自分事化されないということもありました。なので、ちゃんと自分の場所としてリアリティを持ってもらうために、自分達の場所を自分で作りながら、みんな近い距離でつながっている、本当の村みたいなものを作ろうとしました。それが「村世界」です。

 

加藤:大学のアトリエや、展示のゾーニングの考え方もあります。均等に同じスペースを割り振るのではなく、大きい作品には大きく取るようなことです。アトリエでも、共有部にみんなが快適に過ごすために扇風機やガスコンロを持ってきたり、掃除ルールを決めて自治していく。良い場所もあれば、汚い場所もありますよね。ものづくりにおいては、画一的なルールよりもこういった設計のほうが重要だと思います。

 

《CEKAI オフィスB1》

 

———新型コロナの影響で、学生たちが集まりづらい状況が続きます。
ご自身の体感なども合わせて、何か思うことはありますか?

 

井口:僕は京都の美術大学で教員をやっていて、今年は全てオンライン授業になりました。新入生にとっては、まずは「この人どういう空気なんだろう」などのフィジカルな情報は重要ですが、その後に自分が動いていくときには、1か所に集まる必要はないと思います。分散しても授業は受けられるし、何となく情報があれば仲間とオンラインで繋がることができます。そういう意味では、「集まったり分散したりを繰り返す」とちょうど良いかもしれません。集まりすぎるとフレームができて固まっちゃうし、分散し過ぎると情報が足りなくなってきますし。

僕らも、色んな人たちが集まる場を設計するのは今しかできないな、と思っていました。と言うのは、どのみち分散していく世の中になるから、事務所を点々と色々な場所に持つと良いんじゃないかと、新型コロナ関係なく話していたんです。分散する前には必ず1回は集まる機会が必要で、ちゃんとコミュニケーションを取り、あいつはこうだとか、この人達が組むと面白いとか、そういうことを観測した上で分散しないと、ただ散っているだけになっちゃいますからね。

 



《Adobe “Make it! Student Creative Day”》(2019年)

 

 

■デザイン・ラウンジ、デザインハブでのCEKAIの活動について

 

———2017年、モーフィングの手掛けるクリエイターのクレジットデータベース「BAUS(バウス)」のプレス発表会をデザイン・ラウンジで開催しました。
サービスを開始した頃と現在と比べて、変化した点があれば教えてください。

 

加藤:バウスは、もともと多様なチーム組成やマッチングを目指して始めましたが、プロフェッショナルがチームを組んで大きなクリエイションを生む仕組みという意味では一年半くらい殻を破れずにいました。もう少し根本から整備しないとその領域にいかないだろうと、2019年春「個人の製作者情報をオープンにし、与信を作っていくクレジットデータベース」に変えました。

雇用のあり方が変わる中、個人は何ができて、どういう人とつながり、今まで何をしてきたか、ポートフォリオサイトやSNSで見られるようになったと思われがちですが、まだ整備されていないのが実情です。そんな中で、クレジットやエンドロールのような、仕事に対する役割や実績の証明がないと、チーム組成が進まないのでは?というところから再びスタートしました。

 


《BAUSプレス発表会:右から井口 皓太氏(CEKAI)、中村 勇吾氏(tha ltd. WEBデザイナー)、長澤 忠徳氏(武蔵野美術大学学長) 、中前 省吾氏(エイベックス・エンタテインメント株式会社)、加藤 晃央氏(CEKAI)》(2017年)

 

———2017年、デザインハブにて企画展「ハブとマングース」を企画頂きました。
チームによるクリエイティブプロセスを紐解くことがコンセプトでしたが、企画側はいかがでしたか?

 

小松:僕は、プロジェクトマネジメントを担当しましたが、TYMOTEのものづくりを間近で見ていました。TYMOTEは組織がフラットなこともあって、最初は打ち合わせをしても全然決まらず、かなり不安でした。しかし、アメーバのようにものが作られていく過程は新鮮で、メンバーがどんどんパスを回して、パスの回数が多くなるほど共通認識が生まれ、形ができていきました。まさに、セパレートさせないものづくりの手法でした。

制作以外で言えば、デザイン・ラウンジという場所が魅力的でした。大学と社会の中間地点のような場所でありながら放課後的な空間で、六本木のワーカーの人がよく会場に来てくれました。展示を見ること自体が、仕事の合間の体験として刺激を受けられるものだったんじゃないかなと思います。

 

井口:あの時の展示に参加した僕以外のグラフィックデザインをやっていたメンバーは、「グー・チョキ・パー」というチームを作って、オリンピックのポスターなどを作っています。彼らは、円卓でやんや言いながら、どんどん足して作り上げるというスタイルでやっているんですが、それはまさにデザインハブでの展示で生み出した手法だったので、僕らにとって重要な機会になりました。僕もピクトグラムを動かすオリンピックの仕事をやらせてもらったり、それぞれの活動のハブとして交差点のような存在でした。

 


《東京ミッドタウン・デザインハブ 第70回企画展「ハブとマングース」ヴィジュアル》(2017年)


《東京ミッドタウン・デザインハブ 第70回企画展「ハブとマングース」展示風景》(2017年)

 

市ヶ谷へ移行後のデザイン・ラウンジの機能に思うこと

 

———2020年12月にデザインハブ内の拠点を閉室し、その機能を市ヶ谷キャンパスへ移行します。六本木での情報発信拠点としての期間を経て、市ヶ谷は実際に社会を学びのフィールドとして捉えるイメージですが、今後の活動についてはどうでしょうか。

 

井口:「学生と社会の間」というものが大切だと思っています。僕も加藤も、大学3年生で急に就活して社会人になるのではなく、社会人か学生か分からないその延長でやってきました。切り替わっていくことがもったいない場合もありますし、もう少し学生から社会の間のグラデーションが広くなると良いと思います。

大学の機能自体も、これから変わってくるでしょうか。六本木から市ヶ谷に移り、放課後に立ち寄る場のような、近隣の会社の方など関係のある人が混じってきて、大学なのか社会なのか分からない空間を作っていけると良いかもしれません。

 

———デザイン・ラウンジにて様々な企画をご一緒させて頂きましたが、今回振り返ることで、CEKAIのチームによるクリエイティブの強さを改めて知ることができました。
移転後も、市ヶ谷の場所の特性を活かしながら、美術大学の社会への繋がりを考え続けていこうと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

 


《東京ミッドタウン・デザイン部「ハブとマングース」夜のギャラリーツアー》(2017年)

 


加藤 晃央 (かとう あきおう)世界株式会社 共同代表 / 株式会社モーフィング 代表取締役
1983年長野県生まれ。2006年、武蔵野美術大学在学中に起業し、株式会社モーフィングを設立。2013年、クリエイティブアソシエーションCEKAI / 世界株式会社を井口と共に設立。2018年、クリエイターのためのコレクティブスタジオ「村世界」を開村。2019年、クレジットデータベースBAUSをリリース。クリエイターの可能性を高め、繋げ、拡張させることをミッションとし究極の裏方を目指している。

 


井口 皓太 (いぐち こうた)映像デザイナー / クリエイティブディレクター
1984年生まれ。2008年武蔵野美術大学基礎デザイン学科在学中に株式会社TYMOTEを設立。
2013年にクリエイティブアソシエーションCEKAIを設立。
動的なデザインを軸に、モーショングラフィックスから実写映像監督、また、チームビルディング型のクリエイティブディレクションを得意とする。
主な受賞歴に2014東京TDC賞、D&AD2015yellow pencil、NY ADC賞2015goldなど。京都芸術大学客員教授。

 


小松 健太郎 (こまつ けんたろう)プロデューサー
1985年生まれ。茨城県出身。2009年3月 武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。アートショップPOMY、モーフィングを経て、クリエイティブアソシエーションCEKAIに所属。主な仕事に「東京地下ラボ by東京都下水道局」「Adobe Make it! Student Creative Day」等。クリエイティブとコミュニティを軸にしたプロデュースを行う。

 

(文=武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ)

 

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