lounge

新しい時代の

デザイン・デザイン教育を

考える場へ

武蔵野美術大学デザイン・ラウンジは、領域・概念が拡大し続ける「デザイン」を捉え、
新たな時代のデザイン教育を創出する「場」を目指しています。

【magazine】スペシャルインタビュー2020 第8回「新しいデザイン教育とデザイン・ラウンジ」

武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ (以下、デザイン・ラウンジ) は、2020年12月に東京ミッドタウン・デザインハブ(以下、デザインハブ)内の拠点を閉室し、その機能を市ヶ谷キャンパスへ移行する。この機に、これまでデザイン・ラウンジにご関係頂いた学内外の方からお話を伺いながら、これまでの研究・活動を振り返り検証を行う、デザイン・ラウンジ オンライン企画「スペシャルインタビュー2020」の第8弾。
今回は、WEデザインスクール開講の場となったデザイン・ラウンジが「デザインの実験の場」として、どう機能していたのかを、当時のことを振り返りながら、社会とデザインの関係の変化と共に変わっていくデザイン教育について、株式会社OFFICE HALO(以下OFFICE HALO) 稲葉裕美氏、滝澤幸子氏より、お話を伺う。

 


《OFFICE HALO ビジュアル》

 

■芸術文化と社会をつなげる教育デザインファーム「OFFICE HALO」の事業について

 

―――OFFICE HALOの事業内容について、教えてください。

 

稲葉:OFFCE HALOは、芸術文化と社会の架け橋をする、教育デザインファームです。現在は、ビジネスパーソン向けのデザインの学び場「WEデザインスクール」を主軸として、クリエイティブ教育に特化したビジネスを展開しています。このプログラムは、通学クラスだけではなく、企業や自治体へ出向いて、デザイン研修を実施させて頂くこともあります。

 

―――ビジネスパーソン向けのデザインの学び場「WEデザインスクール」についてお伺いします。
立ち上げ当初はデザイン・ラウンジにて開催していましたが、このプログラムが生まれた経緯を教えて下さい。

 

稲葉:OFFICE HALOでは、「WEデザインスクール」を立ち上げる前に、大人向けのアートの学校「CORNER」を運営していました。アートの見かたをワークショップやツアーなどで学ぶプログラムです。その一方で、ビジネスパーソン向けの新しいデザイン教育の仕組みづくりもしたいと企画を考えていた頃に、井口博美先生(元デザイン・ラウンジ ディレクター)から、デザイン・ラウンジでの新構想についてお話を頂きました。ちょうど、双方の思い描いていたものとタイミングが重なり、デザイン・ラウンジと共に良いスタートを切ることができました。
「CORNER」では、参加者それぞれの価値観や学びたい部分といった、人によって少しずつ違うところを、参加者との対話の中で観測し、どんな伝え方をすれば良いか?何が彼らの学びに役立つだろうか?と考え続けていました。それらの蓄積は、「WEデザインスクール」にも活かされています。


《WEデザインスクール 「デザイン理論トレーニング基礎(全6回)」2017年 第二期講座》(2017年)

 

―――「CORNER」は2015年、「WEデザインスクール」は2016年にスタートしました。
それぞれの立ち上げの頃と現在を比較すると、どのような変化がありましたか?変わらないことなども、教えて下さい。

 

稲葉:以前と比べると、アートやデザインに対する社会からの期待がすごく高まっているように思います。ビジネスパーソンの中でも、アートやデザインを学びたいという層が広がってきている状況です。「クリエイティブの学びの機会を提供する」という、OFFICEHALOの基本的なビジョンは変わっていませんが、近頃は、ありがたいことにお客様のほうからデザインのお悩み事で声をかけて頂くケースが増加しています。様々な場所で必要として頂くようになった、という変化があったかもしれません。

 

滝澤:そうですね。アートに関しては、特に社会からの注目が集まっていますよね。今では、「アートはビジネスに活かせる」というように言われていますが、「CORNER」を立ち上げた2015年頃は、アートは趣味として学びたいと考えている方がほとんどだったと思います。
社会からの期待の高まりで言えば、クリエイティブの学び直しが、仕事に活きるだけではなく、自分の生き方を見つめ直すために有効である、という発想が増えてきている印象があります。「生き方をデザインする」方法として、クリエイティブの力を身につけたい、とお考えの方が増えたのは最近の変化です。


《WEデザインスクール プログラム説明会》(2016年)

 

―――デザイン・ラウンジの活動趣旨のひとつに、「新しいデザインの実験の場」を掲げていました。
開催場所としては、何らかの効果はありましたか?

 

稲葉:デザイン・ラウンジでは、「WEデザインスクール」のテスト版やプログラム説明会から始めていきました。参加者の方が、日頃どんなところで困っているとか、デザインのどんな学びを求めているとか、色々試行錯誤しながら知ることができ、作るべきプログラムの輪郭がはっきりしていきました。
場所として言えば、デザインのコア的な場だったからこそ、多くの方に興味を持ってもらえたように思います。デザイン・ラウンジの部屋の外に出ると、東京ミッドタウン・デザインハブの企画展が開催されていて。一般的な貸し会議室とは異なる、「デザインを伝える拠点」という場のエネルギーが強かったので、デザインを学ぶ環境として最適でした。最初のうちから、面白い人がたくさん来てくれましたし、講座の回数を重ねるにつれて参加者自身がどんどん変化していくのが見ることができてよかったです。

 

———なるほど。たしかに、10日間連続講座のような参加者と接する時間が長いプログラムでは、彼らの価値観や生活環境なども垣間見ることができて新鮮でした。


《WEデザインスクール 10DAYSプログラム デザインリテラシー・ベーシック》(2018年)

 

■これからのデザイン教育と、人の集まる場について

 

―――これからの人が集まる場所について、お伺いします。
新型コロナの流行もあり、「WEデザインスクール」は早めの段階でオンライン開催へシフトされていましたが、状況はいかがですか?

 

稲葉:「WEデザインスクール」は、オンライン化しやすいコンテンツだったので、スムーズにオンライン開催へ移行できました。講座自体も、通学クラスとほぼ変わらない内容で提供できています。むしろ、これまで参加が難しかった地方在住の方や、子育て中で外出をすることが難しい方などが新しく参加してくださっています。どんな状況でも学びの必要性は変わらないので、そういう意味では、オンライン化したメリットは大きかったですね。

 

滝澤:プログラムが、もともと考えて言語化したり議論する内容がメインだったので、制作で0.1mmの差を詰めていったり・・という作業が必要なかった、という点も作用しているかもしれません。それから、オンライン開催をしてみてからの発見ですが、オンラインならではの参加者との密なコミュニケーションの取り方があると感じます。モニター越しではありますが、参加者全員とずっと目を合わせて議論する状態なので、すごく距離が近い感じがするんです。

 

稲葉:そうですね。会場での講座だと、それぞれの人の色々な視界があり得ましたが、オンラインだと画面上の視界しかありません。会場では、「お互いの顔を見続ける」ということが少なかったのかもしれません。ずっと見えていることで参加者の方がどんな課題感を持っているのかすぐ把握できたので、クラスの形成がしやすかったです。

 

―――そういった利点もあったのですね。オンライン開催のほうが密なコミュニケーションができるというのは意外でした。
人の集まり方の多様化が加速しそうです。


《こどもの感性を伸ばすために親にできること ~親も子もクリエイティブに生きるためのヒント~ オンライン配信の様子》(2020年)

 

―――これからのデザイン教育について、何かお考えはありますか?

 

稲葉:今、デザインやアートへの期待値は高まっていますが、デザイン教育だけではなくクリエイティブ全体に関する教育が足りていない状況です。その原因は、教育制度や家庭、地域、など色々ありますが、美術大学に進学した人などを除いて、デザインやアートに触れる機会が人生の中ですごく少ないことが大きいのではないかと思います。そして、それを解決していくための核心は「感性の育て直し」にあると思っています。感性をどうやって取り戻していくか?自分の中でどう育て直していくか?ということが、ビジネスパーソンの抱える課題だと捉えています。
また、生活者としても、デザインを知っているということはすごく大切です。物を買うときに何を選ぶか、という消費者的な面でも有効であるし、クリエイティブな価値観を自分自身のより良い生き方の工夫にも使うことができます。クリエイティブの学びは、仕事に有効というだけではないのです。
これからも、OFFICEHALOでは気軽にアクセスできる学びの場を作っていきたいと思っています。


《WEデザインスクール プログラム説明会》(2016年)

■市ヶ谷へ移行後のデザイン・ラウンジの機能に思うこと

 

―――2020年12月に東京ミッドタウン・デザインハブ内の拠点を閉室し、その機能を市ヶ谷キャンパスへ移行します。六本木での情報発信拠点としての期間を経て、市ヶ谷は実際に社会を学びのフィールドとして捉えるイメージですが、今後の活動についてはどうでしょうか。

 

滝澤:市ヶ谷の拠点はキャンパスなので、学生と繋がりやすく、より活発に動けそうだなと思います。デザイン・ラウンジの機能を市ヶ谷キャンパスが融合することで、これまでの六本木での活動で蓄積された研究・知見とのいい化学反応が起こりそうですよね。

 

稲葉:美術大学が社会とどう繋がっていくか、という挑戦的なコンセプトを掲げていたデザイン・ラウンジは、すごく良い場所だったと思います。大学だけでなく、クリエイティブ全体が社会と関わっていくことに繋がっていきますし。私たちも、そのコンセプトが共鳴して、WEデザインスクールをデザイン・ラウンジという場所で始動することができて良かったです。

 

―――デザイン・ラウンジの活動後期は「新しいデザイン教育」をテーマに掲げていましたが、「WEデザインスクール」という先進的な教育プログラムを一緒に開催できたことで、私達の目指すものが形作られていったように思います。
稲葉さん、滝澤さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


《WEデザインスクール 「デザイン理論トレーニング基礎(全6回)」2017年 第二期講座》(2017年)

 


稲葉裕美
OFFICE HALO代表取締役/WEデザインスクール主宰
武蔵野美術大学造形学部卒。2014年に教育デザインファームOFFICE HALOを設立し、同年、大人のためのアートスクール「CORNER」を、2016年にビジネスリーダー向けデザインスクール「WE Design School」を開校。デザイン、アート、表現領域のアカデミックな方法論を融合させ、企業、大学、自治体等で幅広く教育プロジェクトを展開している。

 


滝澤幸子
OFFICE HALOチーフクリエイティブオフィサー
武蔵野美術大学造形学部卒。在学中よりアートギャラリーにて様々な対象者に向けた対話型ワークショップ等の教育プログラムやプロジェクト・展覧会企画のサポートに携わる。2014年、OFFICE HALO創業メンバーとして、事業プログラム開発に従事。「アート×教育」の経験を生かし、実践とセオリーを織り交ぜた講座設計、教材開発等、幅広く担当している。

 

 

(文=武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ)

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